日曜日に母を連れてホームセンターとスーパーに行くことになった。
新しく購入した冷蔵庫が空っぽだったからである。
いつもどおりカローラでいこうとすると自分の車を洗車していた弟がキ
ーをくれた。
「これで行け」
ＢＭＷ Ｍ３。
３リッターのばけものである。
「いや、左ハンドルは・・・ぶつけるぞー。」
「すぐ慣れる」
「マニュアルミッションは半年以上乗って無いし・・・。」
「ＭＲ２といっしょ」
「２ドアだから荷物載らないし｣
「トランクにいれりゃいいじゃん」
「洗車したばっかで、雨降り出したから汚れるぞ･･。」
「コーティングしたから大丈夫」
と、なぜかすべて却下。
ということで、降り出した雨の中、なれない左ハンドル、２７０馬力オ
ーバーのばりばりのスポーツカーでお買い物へ行くことになったのである。
まず発進でエンスト。
なんとか発進するが、２速に入れたとたんガクンガクン。
理屈じゃわかっちゃいるけど、右手でシフトすると左手のシフトと左右対称に動いてしまうのだ。
どうしても頭でシフトパターンを考えてからシフトすることになってしまう。
思い切り左上がバック、軽く左上が1速、左手前で2速、ニュートラルで手を放して上が3速・・・と呪文のように唱えながら走る。
シフトアップするたびにがくがくする車に母から「へたくそ」の一言。
実はこの７５歳の母は車の陸送を２０年以上やっていた運転のベテラン
である。反論もできない。
雨なのでワイパーを動かすとウィンカーだったし、曲がろうとウィンカ
ーを出そうとするとワイパーが動くし。(どうして日本車と逆なのよ
ー）
ＭＲ２であれだけ練習したヒールアンドトゥもダブルクラッチも、右手と足のタイミングがぜんぜん合わず、へアピンカーブでギアを入れそこなうし。
スーパーにつく頃には胃がキリキリと痛み出す始末。
で、ロックをかけて、財布を忘れたことに気づいてドアを開けたら。
大音量のホーンと音楽。
そう、セキュリティが鳴り出してしまったのだ。
キーを挿したりエンジンをかけてみたけど止まらない。
駐車場の周りは閑静な住宅街だ。
パニックになりながら携帯で弟に聞いてなんとか静まった頃には、心身
ともにへとへとに疲れてしまった。
母も乗り降りのしにくいバケットシートに悪態をついていたし。
家に帰った頃には２人とも同じ意見だった。
「カローラはいいねえ」
ＢＭＷにとってもわれわれにとっても、災難なドライブだった。
Ｍ３はきっとこう言ってただろう。
「俺はお買い物のために生まれてきたんじゃねーよ！！」