殺伐とした練習風景にジャージ姿のイスレロお嬢と左目に白いバラの眼帯をしたイン
プルシボちゃんがぴったり息のあったムレータのファエナ(演技)とカレトンを用
いた牛役を務めると場の空気が一変する。。鬼軍曹のピラータ先生の目が変わ
る。
ピラータ先生:
「なんという闘牛士の品格(トレリア)だ、イスレロ!お前の手首には音楽が流
れてるな。」
イスレロお嬢
「恐縮ですわマエストロ。」
ピラータ先生:(カレトンを押すインプルシボちゃんに対して)
「いい牛だったぞ、その通りだ。いい牛がいなけりゃ名演(ファエナ)は生まれ
ん。お前は「銀の眼(優れた助手の目)」を持ってるな。」
インプルシボ:
「……全ては、計算通り。マエストロの指導の賜物……」
ピラータ先生;
「いいか野郎ども!今日はジャージの遊びじゃねえ。今日はいつもの木の模造剣ではなくこの鉄の塊(真剣)で、藁
束を『本物の牛の心臓』だと思ってブチ抜く訓練だ。剣に遊ばれるなよ、剣を支
配しろ!」
そんな時、ジャージ姿のイスレロお嬢がいつにもなく皆んなの注目を浴びる。イ
スレロお嬢とインプルシボのコンビは常に注目の的だ。
今日はいつもの背中のクッションの隙間に先端の丸まった木の模造剣をぶっ刺す一輪車のカレトンとは違う。
動かないように地面にガッチリ固定された二輪の巨大な干し草の束を積んだ
トドメのエストカーダ用のカレトンだ。生徒たちに徹底的に真剣の重さと実際の牛を刺した時の感触を腕に覚えさせるのが目的だ。
ピラータ先生:
「よしイスレロ、皆の前に出てエストカーダの基本の型ボラピエの手本を見せて
やれ。」
イスレロ:
「まず左手のムレータを右足のさらに前、極限まで低く送り出します。牛の視線
を地獄の底――地面すれすれまで釘付けにするのです。そうすれば、牛の肩甲骨の
間に、天国へと続くわずかな『隙間(クルス)』が生まれますわ。」
(※お嬢様の体が、二輪カレトンの巨大な角のわずか数ミリ横を、吸い込まれる
ように通り抜ける。右手は最短距離の直線を描き、重い藁束の中心を寸分違わず
射抜いた)シュパーン!!剣先が米俵のような分厚い藁の束を貫通する。
イスレロ:
「刺すのは手首ではありません。右足の踏み込みと、全体重を剣先に預けるので
す。……自分の命を相手に預けて初めて、相手の命をいただく権利が得られる……
これが、わたくしのボラピエですわ。」
ピラータ先生:
(笛を鳴らすのも忘れ、ニヤリと不敵に笑う)
「……。見たかい、野郎ども。あれが『剣を支配する』ってことだよ。アビスパー
ド、お前の針のような鋭さも、今のイスレロのような『重み』がなきゃ、ただの
裁縫道具で終わりだよ!」
アビスパード:
「……凄い。……あんなに大きなカレトンが、お嬢様の剣に吸い込まれていったみ
たい……。」
イスレロ:
「ボラピエ……それは『走る足』。……大切なのは、左手で死を招き、右手で生を刻むことですわ。」